鶏の
アニマルウェルフェア
卵を産む鶏の
アニマルウェルフェアについて、
ご紹介します
アニマルウェルフェアって何?
「動物福祉」といわれる動物の幸せを科学的な視点で考えることで、動物にとって心地よい状態やストレスのより少ない状態をめざした動物の飼い方のことです。しかし、世界の国々や地域、人々の動物に対する考え方や価値観にも違いがあるので、世界的に通用する「動物福祉」の原則を「5つの自由」として定めています。この「5つの自由」をもとに、動物の心地よい状態やストレスの状態を科学的に評価する研究が進んでいます。
栄養不良からの自由
動物にとって適切で栄養的に十分な食物や水が与えられている
苦悩からの自由
大きなストレスや精神的苦痛(不安)がかからないような環境で飼育する
動物にとって清潔で、快適な休息ができ、ケガをしないような適切な環境下で飼育する
疾病からの自由
健康管理や病気の予防に十分な配慮がされ、ケガや病気があれば適切に治療をする
発現する自由
動物が持つ本能的な行動ができるための十分な空間・適切な環境が与えられている
採卵鶏の
アニマルウェルフェアって何?
卵を産む鶏を採卵鶏といいます。この採卵鶏の飼い方や、健康状態の観察、管理することなどを動物福祉の視点で考えることです。政府間機関 WOAH※1が定めたアニマルウェルフェアのガイドラインがあり、これを参考に日本でも採卵鶏にとっての「5つの自由」に基づく飼育管理方法が具体的に示されています。
採卵鶏の飼養管理に関する技術的な指針(PDF)
このWOAHのガイドラインは定期的に更新されており、それに伴い日本でも「心地よい状態やストレスの少ない状態を実現するための採卵鶏の飼い方」を見直しています。
※1)WOAH=国際獣疫事務局、
家畜の世界的な安全基準などを決める機関
アニマルウェルフェアに
配慮した飼育方法って何?
5つの自由に基づいて作られた日本のガイドラインに従って飼育されることです。最も大切なことは、鶏舎の構造や設備の状況ではなく、採卵鶏の健康を第一に考えて、日々の観察や丁寧な取り扱いなどの適切な飼育管理を行うことです。
採卵鶏の飼養管理に関する技術的な指針(PDF)
採卵鶏の飼育方法には色々なものがあります。一般的には、ケージ飼いは糞尿が区分され衛生が保たれやすいことや、鶏が本能的に持つ序列作りからくるつつきによるストレスやケガの防止などで優れているのですが、鶏の行動が制限されます。ケージフリーは屋内や屋外で自由に飼育する方法です。鶏の行動の制限は少ないという特長があります。一方で、鶏の本能からくるケンカ(つつき)によるストレスやケガが増えたり野生動物からの感染症などになりやすくなります。この様にどの飼育方法にも長所・短所があり、一概にどの飼育方法が一番良いとは言えません。鶏の健康に及ぼす湿度や気温、病害虫などに関係する環境要因は、飼育される地域に即した配慮が必要です。日本においても、気候や土地面積などの環境要因や固有の食文化などを考慮した、よりよい飼育方法や形態の研究が進められています。
鶏の飼育方法と、卵の値段の関係
現状9割以上の養鶏場で使われている飼養方法であるケージ飼いは、鶏の衛生的な飼育管理や労働生産性に長所があり、買い求めやすい卵の価格実現に繋がっています。アニマルウェルフェアの5つの自由をより高めると、人件費や飼育設備の費用などが増加し、卵の値段は高くなります。たとえば、一般的なケージ飼いと比較してケージフリー飼育の卵は約2倍の価格になることも試算されています。従って、アニマルウェルフェアをよく理解した上で、考えて選択する事が大切になりますので、今後どのような育て方をされているのかが示された上で、卵の購入を選択できる社会になることが望まれます。
日本には独特の気候風土や
卵の生食文化があります
欧米と比べて、日本は暖かくて湿度が高い気候なので細菌が増えやすく、より卵の衛生管理が求められます。そして日本では、“卵かけご飯”など、“生の卵を食べる”という世界的にめずらしい独特の食文化があります。これを支えているのが徹底した衛生管理ができる現在の飼育方法や流通管理です。今後もっとアニマルウェルフェアに配慮した、さまざまな飼い方を取り入れて行く過程においても、この日本独特の気候風土や生食文化に配慮した卵の衛生管理を考えていく必要があります。
コラム:動物の「福祉」と「愛護」
「権利」はどう違う?
「動物福祉」の主体は動物であり、客観的・科学的に動物の状況を評価し、動物の生活の質を向上させることです。そして、動物福祉学という学問として、日々、発展しています。「動物福祉」は、動物福祉に配慮した快適な飼養管理を求めますが、動物の人への利用は否定していません。他方、「動物の権利」は人の権利と同等とみなし、人のための動物の利用を否定する思想です。一方で、「動物愛護」の主体は人であり、人の感情に大きく左右されます。広く社会の理解を得るには、感情論や思想だけでは限界がありますので、客観的、科学的根拠がある「動物福祉」が社会に受け入れられやすく、実際、世界の多くの国々では、動物福祉の概念をもとに法律がつくられ運用されています。
公益社団法人日本動物福祉協会獣医師・調査員 町屋 奈
- ●「動物」が何を必要としているか
客観的に飼養環境、動物の状態を
測定・評価し動物の生活の質を向上させる - ●対象=全ての動物
「自分が
どう思うか」
ではありません
- ●「人」がどう思うか
動物を愛護する情、思いやり - ●対象=主に犬・猫など伴侶動物
「かわいい、
かわいそう」
などの感情