研究・調査
23/08/28
No.71
ゆで卵・スクランブルエッグ・プリン・スポンジケーキで比較
広島大学と共同で作出した「オボムコイド」を含まない鶏卵アレルギー低減卵が十分な調理・製菓適性を有することを確認
8月24日(木)~26日(土)に開催された日本食品科学工学会で発表
キユーピー株式会社(本社:東京都渋谷区、代表取締役 社長執行役員:髙宮 満、以下キユーピー)は、国立大学法人広島大学(学長:越智 光夫、以下広島大学)と共に、2013年からアレルギー低減卵※1の共同研究を開始し、2022年4月からは、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)による産学連携プログラム「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」の「共創分野(本格型)」に採択され、10年間のプロジェクトが始まっています。2023年4月には、主要なアレルゲンである「オボムコイド」を含まない鶏卵(アレルギー低減卵)の安全性を世界で初めて確認したことを発表しました※2。今回、卵の基本的な特性および、ゆで卵・スクランブルエッグ・プリン・スポンジケーキでの調理・製菓適性を評価したところ、アレルギー低減卵は通常卵と比較して熱凝固性が高く、食感などに若干の違いはあるものの「十分な調理・製菓適性を有する」ことが確認されました。この研究成果について、2023年8月24日(木)~26日(土)に開催された公益社団法人日本食品科学工学会の第70回記念大会※3にて発表しました。
※1 鶏卵中に含まれる、熱や消化酵素に強いタンパク質を除去することで、アレルギーを低減できる鶏卵のこと。
※3 公益社団法人日本食品科学工学会第70回記念大会:https://jsfst.smoosy.atlas.jp/ja/nenzi
卵の三大特性のうち、「熱凝固性」は高い傾向。「起泡性」「乳化性」はほぼ変わらない
グラフ1 アレルギー低減卵と通常卵の熱凝固性
(同条件で加熱し凝固した卵白の破断応力※5で比較)
卵には、三大特性と言われる「熱凝固性」(熱で固まる性質)・「起泡性」(かき混ぜると泡立つ性質)・「乳化性」(水と油を混ぜ合わせる性質)があります。これらの特性があることで、さまざまな卵料理が存在するほか、練り物・菓子・マヨネーズなど多種多様な加工食品の原材料として利用されています。今回、アレルギー低減卵と通常卵を用いて、この三大特性に関する比較試験を行いました。「熱凝固性」については、通常卵と比較して高い(固まりやすく、より硬くなる)ことが確認されました(グラフ1参照)。これは、通常、卵白タンパク質に約1割含まれるオボムコイド(加熱しても固まらない)が無いことで、相対的に他のタンパク質の比率が高まったためと考えられます。「起泡性」「乳化性」については、通常卵と比較して有意な差は認められませんでした※4。
※4 これに関連する研究成果として、「一般社団法人日本食品保蔵科学会 第72回大会」(2023年6月に開催)にて、アレルギー低減卵が通常卵と同程度の加工特性を有することを、学校法人東京農業大学 キユーピー「エッグイノベーション」寄付研究部門が発表した。https://www.nodai.ac.jp/news/article/72-1/
※5 破断応力:物体に力を加えていってその物体が破壊されずにもちこたえる限界の最大応力のこと。
食感が硬くなる傾向はあるものの、十分な調理・製菓適性を有することを確認
次に、実際に卵料理や菓子を作る際に、アレルギー低減卵が通常卵と比較して適性があるかどうかについて、官能評価をはじめとする各種試験を行いました。まず、アレルギー低減卵を用いた「ゆで卵」については、卵白部分は通常卵に比べてしっかり固まり食感の硬さが認められましたが、卵黄部分については差がありませんでした。次に、「スクランブルエッグ」で比較すると、アレルギー低減卵の方がやや火通りが早く、固まりやすい傾向が見られましたが、仕上がりに大きな差は認められませんでした(図1参照)。「プリン」についても、通常卵よりしっかり固まり、食感の硬さなどが確認されました。最後に、「スポンジケーキ」について比較すると、焼成後の体積は同等でしたが、アレルギー低減卵のほうがやや食感に硬さがあるほか、山なりに膨らむ傾向が確認されました(図2参照)。
以上のように、アレルギー低減卵は通常卵と比較して熱凝固性が高く固まりやすい※6ため、食感などに若干の違いはあるものの、「十分な調理・製菓適性を有する」ことが確認されました。
※6 固まりやすい:固まるスピードが速く、硬さも増す。
図1 アレルギー低減卵と通常卵のスクランブルエッグの火通りを比較
図2 アレルギー低減卵と通常卵のスポンジケーキの膨らみ方を断面で比較
アレルギー低減卵を社会実装するために。その可能性と今後の課題
今回、「熱凝固性」「起泡性」「乳化性」といった三大特性や、それらを応用した調理・製菓適性を確認できたことは、今後、アレルギー低減卵がさまざまな食品に利用される可能性を探るために非常に重要な研究成果です。また、これと並行して、独立行政法人国立病院機構相模原病院と共に、卵アレルギー患者の保存血清を使った反応試験を行い、有効性評価にも取り組んでいます。今後さらに、臨床試験も計画しています。
このように、オボムコイドを含まないアレルギー低減卵が社会実装されるまでには、クリアすべきさまざまな課題があります。そのような課題について、研究開発に共同で取り組む研究者たちが、「アレルギー低減卵の可能性と今後の課題」と題し、語り合った模様を“研究者ディスカッション”として公開しました(下記URL参照)。
キユーピーは、その可能性と課題をしっかり見据え、安全性・有効性の確認や消費者とのコミュニケーションを大切にしながら“安心”して口にすることができる社会実装を目指して、今後もアレルギー低減卵の研究に真摯に取り組んでいきます。
■PRTIMES STORY「研究者ディスカッション:アレルギー低減卵の可能性と今後の課題」を2023年8月28日に公開:
https://prtimes.jp/story/detail/ZrN4DXhVl2B
印刷時には、PDFデータをご利用ください。