研究・調査

24/09/06

No.67

卵・乳・小麦に配慮したクッキーやプリンでレシピ開発

アレルギー低減卵でおいしさと低アレルゲン性を両立した菓子メニューの可能性を確認

9月6日(金)~7日(土)に開催の日本調理科学会で発表

 キユーピー株式会社(本社:東京都渋谷区、代表取締役 社長執行役員:髙宮 満、以下キユーピー)は、2022年から応用研究フェーズに入った「アレルギー低減卵」について、独立行政法人国立病院機構相模原病院および国立大学法人広島大学(以下広島大学)との共同研究で有効性の評価を進めています。鶏卵アレルギーは小児に多いことから、今回アレルギー低減卵を用いて子どもが好きな菓子メニューの開発に取り組みました。その結果、通常卵と同等のおいしさを有しながら、アレルゲン性が大幅に低い菓子の開発が可能であることが示唆されました。本研究成果は、2024年9月6日(金)~7日(土)で開催される一般社団法人日本調理科学会2024年度大会※1にて発表します。

             

図1 加熱によるタンパク質の変化の違い

■アレルギー低減卵とは
ゲノム編集技術により鶏卵中に含まれる熱に強いタンパク質(オボムコイド、以下OVM)を除去することでアレルギーを低減できる鶏卵です。キユーピーは2013年から広島大学と基礎研究をスタートし、2020年にラボレベルでの作出に成功しました※2

■本研究の目的
アレルギー低減卵にはOVM以外のアレルゲン成分が通常卵と同様に含まれるため、鶏卵アレルギー患者の喫食には、それらを加熱によって失活させる必要があります。失活させた菓子を作る方法として、以下2つが考えられます。

(1)加熱して粉末化したアレルギー低減卵(加熱全卵粉)を製菓材料とする
→卵の熱凝固性が不要なメニュー向き(クッキーなど)

(2)アレルギー低減卵(液卵)を製菓材料にして調理過程で加熱する
→卵の熱凝固性が必要なメニュー向き(プリンなど)
上記(1)(2)の条件で「通常卵と同等のおいしさ」と「低アレルゲン性」が同時に実現できる菓子メニューの可能性を探りました。

■結果の概要
(1)加熱全卵粉では、通常卵と同等のおいしさでアレルゲン性が大幅に低い菓子の開発が可能であることが示唆されました。
(2)液卵では、メニューによってやや食感が硬くなること以外は通常卵と同等のおいしさとなり、低アレルゲン性と両立した菓子の可能性が示されました。一方、加熱条件によって残存するアレルゲン性に差があることが分かりました。

 鶏卵アレルギーを持つ人は、他の食物アレルギーを併発するケースも少なくないことから、本研究では卵・乳・小麦に配慮してレシピ開発を行いました。その結果、卵・乳・小麦に配慮した子どもに好まれるクッキーやプリンのレシピで、低アレルゲン性でありながら通常卵と同等のおいしさを実現できる可能性が示されました。これは、社会実装に向けて大きな前進です。
 キユーピーグループは、卵を使った商品を数多く取り扱う会社として、卵を食べたくても食べられない人のニーズや実態に向き合い、卵アレルギーで苦しむ人を「ゼロ」にしたいという思いでさまざまな取り組みを進めてきました。あらゆる方法で食の選択肢を広げることは、食品メーカーとして向き合うべき重要なテーマと考え、今後もアレルギー低減卵の研究に真摯に取り組んでいきます。

※1 一般社団法人日本調理科学会2024年度大会 https://pub.confit.atlas.jp/ja/event/ajscs2024

※2 キユーピーアヲハタニュース 2023 No.38参照

<研究概要>

■試料

 「加熱全卵粉」または「液卵」を使用して下記の菓子メニューを試作しました。
 「加熱全卵粉」は、試料卵(通常卵またはアレルギー低減卵)を加熱してゆで卵にし、粉末化したものです。加熱処理することで卵の基本機能である「熱凝固性」は失われます。
 「液卵」は、試料卵(通常卵またはアレルギー低減卵)を割って均質化したものです。加熱処理をしていないため「熱凝固性」を有しています。原材料を混ぜ合わせて固める必要がある「プリン」には液卵を使用しました。

 (1)クッキー:「加熱全卵粉」を使用
 (2)プリン :「液卵」を使用(調理過程で加熱)

 また、卵以外のアレルゲンにも配慮し、小麦粉を米粉、バターを米油またはショートニング、牛乳をライスミルクに置き換えたレシピで試作しました。

■試験内容

・官能評価
評価パネル21名が風味や食感などの項目について9点満点で採点しました。

・アレルゲン性評価(血清試験)
鶏卵アレルギー患者の血清を用いたELISA法で測定しました。

■試験結果

(1)「加熱全卵粉」を使用した菓子(クッキー)
 まず、原材料の「加熱全卵粉」についてアレルゲン性評価を行ったところ、通常卵と比較し、アレルギー低減卵ではほとんどアレルゲン性が確認されませんでした(図2-1)。通常卵はOVMが失活せず残っているのに対し、アレルギー低減卵は元々OVMを含まず、OVM以外のアレルゲンは熱で失活したためと考えられます。この「加熱全卵粉」で試作したクッキーの官能評価では、全ての項目で通常卵とアレルギー低減卵に差は見られませんでした(図2-2)。また、クッキーのアレルゲン性評価では、通常卵に比べてアレルギー低減卵のアレルゲン性が大幅に低いことが確認されました(グラフなし)。
 本結果から、アレルギー低減卵の「加熱全卵粉」は、通常卵と同様のおいしさでありながらアレルゲン性の低い菓子の開発が可能であることが示されました。

図2-1 加熱全卵粉(クッキーの材料)のアレルゲン性評価
縦軸のOD値は吸光度測定の値。反応液の色が濃いほど
高値となりアレルゲン性が高いことを示す。

図2-2 加熱全卵粉で作ったクッキーの官能評価
各項目の点数は評価パネル(21名)の平均値

(2)「液卵」を使用した菓子(プリン)
 プリンの官能評価では、「食感の硬さ」でアレルギー低減卵は通常卵に比べてやや硬くなる傾向が示されました(図3-1)。これは、昨年報告したアレルギー低減卵の調理・製菓基本特性において、アレルギー低減卵は通常卵に比べて熱凝固性が高く、固まりやすいことに起因すると考えられます※3。それ以外の項目に差は見られませんでした。プリンのアレルゲン性評価では、通常卵に比べアレルギー低減卵でアレルゲン性が大幅に低いことが分かりました(図3-2)。
 プリンの加熱条件(温度・時間)を変えてアレルゲン性評価をしたところ、高温・長時間になるほどアレルゲン性が低くなる傾向はあるものの、一定の温度・時間以上では変化はありませんでした(グラフなし)。加熱条件は、菓子の焼き具合(焦げ)や食感などおいしさにも影響することから、液卵を使う菓子では、おいしさと低アレルゲン性を両立できるメニューや調理条件(加熱条件や調理機器)を工夫する必要があることが分かりました。

図3-1 液卵で作ったプリンの官能評価
各項目の点数は評価パネル(21名)の平均値

図3-2 液卵で作ったプリンのアレルゲン性評価
縦軸のOD値は吸光度測定の値。反応液の色が濃いほど
高値となりアレルゲン性が高いことを示す。


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