2005/10/19 No.49 |
★研究結果 |
藤田保健衛生大学と共同研究 |
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キユーピーは、卵アレルギーについての研究を進め、その一環として藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院 宇理須教授と共同で、卵アレルギー改善の研究を行っています。これまでの試験で、低アレルゲン化した卵白(加熱脱オボムコイド卵白)を使ったクッキーを28日間食べると、卵アレルギーの方の約50%がアレルギー症状を起こしにくくなるという結果が得られています(n=32)。 今回は、なぜ卵アレルギーが改善されるのかをマウスを使って調べました。その結果、加熱脱オボムコイド卵白を摂取すると卵白に対するアレルギー反応性が低下すること、アレルギー体質が改善されることがわかりました。メカニズムの一端が解明できましたので、日本アレルギー学会で報告します。 今後は、加熱脱オボムコイド卵白の利用を検討していく予定です。
加熱脱オボムコイド卵白を食べるとアレルギー反応を抑制するIL-12が増え、アレルギー反応を引き起こすIL-4が減ることがわかりました。鶏卵に対するアレルギーが起きやすい体質が改善されているといえます。
【発表内容の概要】 1.加熱脱オボムコイド卵白の調製 卵白を加熱して凝固させ(ゆで卵状にする)、それを粉砕して水で洗ってオボムコイドを除去し、「加熱脱オボムコイド卵白」を調製しました。 (注:加熱脱オボムコイド卵白) 卵アレルギーの原因となっているのは、主に卵白のタンパク質です。卵白の中には性質の違う10種類以上のタンパク質が含まれており、人によってアレルギーの原因となるタンパク質は異なります。 一般的にタンパク質は、加熱で構造が変わる(変性する)とアレルゲン性は低下します。ほとんどの卵白タンパク質は加熱すると変性し水に溶けなくなり、アレルゲン性も低下しますが、オボムコイドというタンパク質は変性せず、水に溶けやすい性質のままです。 そこで、まず卵白を加熱してアレルゲン性を低くし、水で洗うことで変性していないオボムコイドを減らしたものが「加熱脱オボムコイド卵白」です。 2.実験方法 マウスの腹腔内に通常の卵白溶液を投与して卵アレルギー体質にした後、「加熱脱オボムコイド卵白」を1%または10%含む飼料を8週間与えました。最終日の5日前から胃内に先の卵白溶液を投与し、最終日の血清および糞中の卵白に対する抗体価を測定しました。また脾臓細胞を培養し、培養液中のサイトカインを測定しました。 3.実験結果 卵白に対する血清中のイムノグロブリンE(IgE)、糞中のイムノグロブリンA(IgA)は、ともに飼料中の「加熱脱オボムコイド卵白」量が多い方が低い値を示しており、卵白に対するアレルギー反応性が低下していることがわかりました(図2)。
また、脾臓細胞を卵白の刺激で培養して、培養液中のサイトカインを測定したところ、飼料中の「加熱脱オボムコイド卵白」量が多い方がIL-12は増加、IL-4は低下していました。このことから、卵白に対するアレルギー体質が改善されていることがわかりました(図1)。 (注:サイトカイン) 細胞が作り放出するタンパク質で、細胞の増殖や機能の発現を促す働きなどをしています。 (注:IL-12とIL-4) 免疫機能を調節するT細胞には、1型ヘルパーT細胞と2型ヘルパーT細胞があり、相互で免疫のバランスを保っています。このうち、2型ヘルパーT細胞が過剰になりバランスが崩れるとアレルギー体質になりやすいといわれており、一方で1型ヘルパーT細胞が活性化されるとアレルギー体質が改善されるといわれています。 IL-12は1型ヘルパーT細胞の活性化に関与するサイトカインであり、IL-4は2型ヘルパーT細胞の活性化に関与するサイトカインです。 【今までにわかっていること】 1.「加熱脱オボムコイド卵白」は低アレルゲン化されている 鶏卵アレルギー患者32例を対象に、「加熱脱オボムコイド卵白」で作ったクッキーを食べていただいたところ、即時型のアレルギー反応や、アトピー性皮膚炎の悪化などの非即時型反応も見られませんでした。 (日本小児アレルギー学会誌、第18巻第1号75〜79、2004) 2.「加熱脱オボムコイド卵白」を食べると卵アレルギーは改善される 前記の鶏卵アレルギー患者32例を対象に、「加熱脱オボムコイド卵白」で作ったクッキーを14日間もしくは28日間食べていただいたところ、17例(53%)でアレルギー症状を起こしにくくなっていました。 (日本小児アレルギー学会誌、第18巻第1号75〜79、2004) 3.「加熱脱オボムコイド卵白」を食べると卵アレルギーになりにくくなる モルモットに「加熱脱オボムコイド卵白」をあらかじめ20日間与えると、その後通常の卵白を摂取させても卵白に対する抗体の産生は抑えられ、卵アレルギーになりにくくなりました。またアレルギー症状も、「加熱脱オボムコイド卵白」を与えていない場合に比べて明らかに軽くなっていました。 (第52回日本アレルギー学会、2002) 【参考:アレルギー診断食】 食物アレルギーの原因を確定する方法として、一般的には血液の中に特定の食物に対するIgE抗体があるかどうかを調べる「IgE CAP-RAST法」が用いられます。しかし実際には、血液中に抗体があってもアレルギーが発症しないこともあり、場合によっては過剰な食物摂取制限につながる可能性があります。 原因食品を特定する一番確実な方法は、原因と思われる食物を試験的に摂取する食物負荷試験であり、その詳細を記載した食物アレルギー診療の手引きが現在作成されています。 厚生労働科学研究として行われた「食物等によるアナフィラキシー反応の原因物質(アレルゲン)の確定、予防・予知法の確立に関する研究」(主任研究者:海老澤元宏 国立病院機構相模原病院 臨床研究センター アレルギー性疾患研究部長)の「平成16年度 研究報告書」によれば、948症例のうち食物負荷試験で陽性だったのは45%で、血液検査での陽性率81%の半分程度だったとのことです。 この負荷試験は、卵(全卵、卵黄)、牛乳、小麦、大豆の乾燥粉末をイチゴピューレに混ぜたアレルギー診断食を患者に摂取させ、アレルギー反応を起こすか確認するものです。 この診断食は、キユーピー研究所が提供しています。 【発表】 本研究は、第55回日本アレルギー学会(平成17年10月20日〜22日、於ホテルメトロポリタン盛岡)の2日目(10月21日)に発表します。 |