研究レポートメタボロミクスを活用した鶏卵の品質評価技術の構築
※掲載内容は2022年6月時点の情報に基づきます。
人の感覚の客観的評価に挑む
鶏卵の品質は、鶏種、飼料、飼育環境など、さまざまな因子の影響を受けると言われています。一般的に、味、香り、色など人の感覚に基づいて判定を行う官能評価によって品質を決定しますが、これらの技能を獲得するには経験年数がかかる上に、再現性や客観性に課題があります。また、単一の成分に由来するのではなく、複数の成分が関与し形成されるため、従来の研究のように特定の化合物に着目した機器分析では、適切な品質の予測が困難でした。
メタボロミクスは、生体内の代謝物を網羅的に解析することにより、生命現象を理解しようとする学問領域で、これまで医学・生命科学の分野で用いられてきました。一方近年では、食品分野にもメタボロミクスを活用した事例は増えてきています。それは、食品が多種多様な成分から構成され、それらが複雑に関係し合い品質を形成しているからだと考えます。そこで今回、鶏卵に対してメタボロミクスを応用することで、客観的な品質評価技術の構築に向け挑戦しました。
㊧栁澤 琢也
(技術ソリューション研究所 評価・解析研究部 おいしさ研究チーム)
コア技術「おいしさ創造」を軸として、おいしさの本質を探究し、商品価値の可視化やおいしさを引き出す技術・素材開発に取り組むことでお客様のおいしさと健康の両立をめざしています。
㊨福岡 真実
(技術ソリューション研究所 加工・包装研究部 計測科学チーム)
お客様に安全安心でよりおいしい商品をお届けするため、研究開発や生産効率向上をめざし、モノの状態や価値を可視化する技術構築に取り組んでいます。
研究概要
本研究では、鶏卵の品質の中でも特に呈味(甘味・塩味・酸味・苦味・うま味など)、風味に関する特徴を明らかにすることを目的として、複数の市販の鶏卵について、官能評価および成分分析を実施しました。官能評価には記述的試験法を用い、生の液卵の呈味、風味に関する複数の項目について、訓練がなされたパネルが評価を行いました。また、成分分析は、呈味、風味への影響が大きいと考えられる、脂肪酸、糖、有機酸、香気成分について実施しました。得られた結果から多変量解析により、鶏卵の呈味、風味特性に寄与し得る成分の探索と、品質予測モデルの作成を行いました。
研究成果
マーカー成分の解明と品質予測モデルの構築
各種鶏卵の呈味・風味特性を分類でき、さらに、呈味・風味の強度に寄与し得るマーカー成分を明らかにすることができました。また、成分プロファイルからそれらの予測モデルを構築することで、客観的に鶏卵の品質を評価できる可能性が示唆されました。
今後の展望
メタボロミクスは、鶏卵の特徴を網羅的に分析しながらも、効率的かつ精度高く評価できる技術です。本技術を活用することで、鶏卵や鶏卵加工品の客観的な品質評価のみならず、将来的には鶏の飼養条件や飼料配合の検討、加工品の製造条件最適化、高付加価値商品の開発などへの展開が期待できます。今後、さらに鶏卵以外の分野にも応用を検討しながら、食品の品質に対する理解の深化と適切なコントロールの実現に繋げ、「良い商品は良い原料からしか生まれない」という、キユーピーグループが100年を越えて大切にしてきた考え方とそれに基づく私たちの行動を、さらに進化させていきたいと考えています。