研究レポート卵アレルギーに向き合う研究で子どもたちを笑顔に!

※掲載内容は2023年4月時点の情報に基づきます。

卵アレルギーで苦しむ子どもをゼロにしたい

近年、環境や食生活の変化等が原因となり、食物アレルギーは増加していると言われています。食物アレルギーの中でも特に乳幼児期に多いのが卵アレルギーです。
私たちは、「卵アレルギーで苦しむ子どもをゼロにしたい」、その想いを胸に、30年以上前から卵アレルギーに向き合い、研究に取り組んできました。卵の低アレルゲン化の研究から始まり、卵アレルギーの診断、症状の改善、そして予防まで、小児科の先生方と一緒にさまざまな取り組みを進めてきました。
それらの取り組みにより、アレルギーの原因食材を含む負荷試験食を使った診断が一般的に行われるようになり、アレルギーの原因となる食品を「与えない診療」から「食べて治す診療」へ大きく変化してきています。
今回は最新の卵アレルギー予防の取り組みをご紹介します。

木村 守
(技術ソリューション研究所 プリンシパル・コーポレート・サイエンティスト)

食でお客様の健康に貢献するために、そして子どもの笑顔を少しでも増やすために、社内外の専門家と連携しながら研究を進めています。

研究概要

2017年に日本小児アレルギー学会から「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」が出され、卵を食べて卵アレルギーを予防する研究が進められています。その一方で、早期に卵を食べることにより重篤なアレルギー症状を発症することもあり、より安全に予防する方法が求められています。
卵アレルギーの主な原因アレルゲンは卵に含まれているオボムコイドというたんぱく質です。
そこで、より安全に予防する方法を検討するために、卵を加熱した後に粉砕・水洗してオボムコイドを減量した加熱全卵を使用した試験を行いました。試験は、一般的に卵アレルギーになりやすいと言われているアトピー性皮膚炎の乳児を対象として、6カ月齢から「オボムコイドを減量した加熱全卵」を食べていただき、12カ月齢時の卵アレルギー発症状況を調べました。
対照は「通常の加熱全卵」としました。これは、既に高い予防効果が確認されていますが、オボムコイドを含むため卵アレルギーを発症するリスクもあります。

研究成果

"より安全に予防する"可能性を示唆

試験の結果、卵アレルギーを発症した乳児は、「通常の加熱全卵群」で約10%、「オボムコイド減量加熱全卵群」で約22%であり、卵を食べさせなかった場合の発症率38%と比較して低く抑えられていました。
また、アレルギーを引き起こす抗体とされる「IgE抗体」の値についても、この2群間で大きな差異は確認できませんでした。
これらのことからオボムコイドを減量した加熱全卵を用いることで、より安全に卵アレルギーの発症を予防できる可能性が示されました。

※出典:夏目ら Lancet Jan 21, 389 : 276-286 (2017)

出典:岡本ら、第59回日本小児アレルギー学会(2022年)学会発表より一部改編

コラム:未来技術への挑戦 「アレルギー低減卵の実現に向けて」

私たちは、卵アレルギーの主な原因アレルゲンであるオボムコイドを含まない鶏卵 「アレルギー低減卵」の研究も進めています。
アレルギー低減卵は、ゲノム編集技術により鶏卵のオボムコイドを狙って働きを止め、その後孵化した鶏が成長し、交配・産卵することにより作出されます。2022年度から、国のプログラム「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT本格型)」に参加し、これまで一緒に取り組んできた広島大学に加え、パートナー企業など新たな仲間とともに応用研究をさらに進めています。
今後、安全・安心に向き合いながら、卵アレルギー患者の方に喫食いただく試験を通じて有効性の確認を進めていきます。
食の選択肢を広げることで、卵アレルギーの方にも卵のおいしさや健康価値をお届けしたいという想いのもと挑戦を続けていきます。

※ 出典:江崎ら、Food and Chemical Toxicology Volume 175, May 2023, 113703

今後の展望

「オボムコイドを減量した加熱全卵」を用いた研究について、今後さらに症例数を増やして研究を進めることで卵アレルギー予防への有効性を確認していきます。そして将来的には、この研究を踏まえて、オボムコイドを減量した加熱全卵を配合したベビーフードを食べていただくことにより、より安全にそして自然に卵アレルギーを予防していきたいと考えています。
また、卵アレルギーで苦しむ子どもたちを笑顔にするためには、今回ご紹介した研究の他にも、卵アレルギーでも食べることができる卵代替食品の商品開発、さらには鶏卵自体へアプロ―チする研究など、さまざまな手段があります。

卵を多く扱う企業として、卵の技術力を磨き、どんな方でも楽しく健康的な食生活を送れるように私たちは研究を続けていきます。

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