研究レポート親子で料理をする経験が子どもの心の成長に貢献する
※掲載内容は2024年7月時点の情報に基づきます。
食を通じて子どもの心の成長を応援したい
幼少期の子どもがいるご家庭では、親が台所で料理をしていると、子どもが「やってみたい」と話しかけてくる場面があるかと思います。夕食時は忙しく、「また今度ね」と返してしまうことも多いでしょう。もし親子で一緒に料理をしていたら、子どもにどのような影響があるのでしょうか。
キユーピーは、食の大切さや楽しさをお伝えする重要な活動として、さまざまな食育活動に取り組んでいます。一例として、親子料理教室の取り組みがありました。料理教室に継続して参加いただいた方からは、「進んでお手伝いをするようになった」、「新しいことや難しいことでも積極的にやりたいと言うことが増えた」、「集中して取り組むことが増えた」、「親子のコミュニケーションがより円滑になった」といった多数の声をいただきました。親子で料理をすることは楽しいだけではなく、子どもの心の成長にも良いのではないかと考え、その関連性を検証することにしました。
発達心理学を長年研究されている田島信元先生(学校法人白百合女子大学名誉教授・生涯発達研究教育センター特別研究員)と、食を通じて子どもの心の成長を応援したいという想いで共同研究に取り組みました。
大江 眞理子
(研究開発本部 未来創造研究所 ヒューマンヘルス研究部 食品機能性研究チーム)
お客様に楽しく健康的な毎日をお届けするため、心と体の健康について研究を行っています。
研究概要
私たちは、健康な食生活に役立ち、食卓への出現頻度が高い野菜料理に着目しました。3歳から12歳までの子どもを第一子にもつ親(n=793)を対象に、調査時点から1年間をさかのぼり、野菜料理の親子共同調理経験群(n=420)、野菜料理以外の親子共同調理経験群(n=133)、親子共同調理未経験群(n=240)の3群に分け、子どもの自己肯定感などの非認知能力を心理的発達スコアとして評価しました。
さらに、野菜料理の親子共同調理経験群については、調理工程を子どもに任せているのか、親子で一緒に実施しているのかを確認し、各調理工程※への子どもの関与度と心理的発達スコアの関連性を評価しました。
また、今回調査した3つの群の子どもの野菜摂取量を確認しました。
研究成果
子どもの心理的発達に良い可能性を示唆
野菜料理の親子共同調理経験群の子どもは、それ以外の群と比較して、自己肯定感など全ての項目でスコアが高まりました。
また、調理工程を子どもに任せている群は、それ以外の群と比較して、どの調理工程においても子どもの積極的な行動や親の協調的な働きかけなどが増え、心理的発達スコアに良い影響があることが分かりました。
このことから、親子で野菜料理をつくる経験は子どもの心理的発達に良く、子どもに調理工程を任せるとより効果的であることが示唆されました。
子どもの野菜摂取量の向上に貢献
野菜料理の親子共同調理経験群は、それ以外の群と比較して、子どもの野菜摂取量が多い傾向があることが分かりました。このことから、親子で野菜料理をつくる経験は心理的発達に良いだけでなく、野菜摂取量を増やし、健康的な食生活に貢献できる可能性を示しています。
※スコア1:お茶碗0杯~半杯未満/日、スコア2:お茶碗半杯以上~1杯未満/日、スコア3:お茶碗1杯以上~2杯未満/日、スコア4:お茶碗2杯以上/日として調査した
出典:大江ら、第10回日本食育学会学術大会より一部改編
コラム:手軽にできる卵料理から親子でチャレンジ
卵は栄養価が高く、脳の発達に大切な成分「卵黄コリン」の摂取源としても、食卓に積極的に取り入れていただきたい食品です。卵料理についても野菜料理と同様の研究を行ったところ、親子で卵料理をつくる経験が心理的発達スコアに良い影響があることが分かりました。また、卵料理の親子共同調理経験群は卵の摂取量が多く、自己肯定感などの非認知能力だけでなく、言語力や探索力といった認知能力スコアが高いことも分かりました。
卵料理は手軽にできるため、親子で料理をするファーストチャレンジに適していると考えます。実際に調査に協力いただいた、親子で料理をした経験のある方の9割以上が卵料理を実施していました。失敗しても大丈夫です。子ども自身が料理を作ってみることが大きな学びにつながるので、ぜひチャレンジしてみてくださいね。
出典:王ら、第12回日本食育学会学術大会より一部改編
今後の展望
本研究により、親子で料理をする経験と子どもの心の成長の関連性を明らかにする情報が得られました。野菜は、種類の多さ、それぞれの色・形・香りなどの特徴があります。また、野菜を使った料理も多岐にわたり、食卓への出現頻度が非常に高いという特徴があります。これらの特徴が、子どもの心理的発達スコアに良い影響を与えていると推察しています。
今後は、実際に親子で料理をしていただき、心の成長の変化の検証を進めます。さらに、幼児期の積極的な食育が食の好みにどのような影響を与えるかも検証していきたいと考えています。食を通じて子どもの笑顔や健やかな成長につながる研究を進め、その情報を皆さまへお届けしていきます。