独自素材へのこだわり卵と麹から生まれた「熟成卵黄」
Vol.2 開発の道のり
※掲載内容は2019年10月時点での情報に基づきます。
キユーピーグループが開発した「熟成卵黄」は、卵黄を熟成させた独自の素材です。
「卵黄のさらなるおいしさを引き出し、お客様にお届けしたい」という研究員の想いから作られました。
これまでにない「熟成卵黄」という素材を実現させるまでの道のりには、さまざまな試行錯誤がありました。
卵黄のさらなるおいしさを引き出すアイデア
宮本 哲也
(研究開発本部 技術ソリューション研究所 機能素材研究部 発酵・微生物研究チーム)
未来の食生活を創造するべく、「発酵」の切り口から新素材・新技術の開発に日々取り組んでいます。
私が「熟成卵黄」のアイデアを思いついたのは、2015年。熟成卵黄を使った商品の発売から遡ること4年前のことでした。
私たちは、“良い商品は良い原料からしか生まれない”という考えを大切にしています。常日頃、私たちの大切な原料のひとつである卵黄をよりおいしくするにはどうすればよいかを考えてきました。
そうして導き出したひとつの答えが、「熟成」でした。
▲タンパク質分解のイメージ図
酵素(=タンパク質を切るはさみ)の種類が多いと、より多くのアミノ酸が生じます。
熟成すると、酵素がタンパク質を分解することでおいしさを感じるアミノ酸が増えます。
その他にも香気成分といったおいしさにつながるさまざまな成分が生まれます。
そこで、酵素で卵黄を熟成させることで、よりおいしい卵黄ができるのでは、と考えました。
市販の酵素ではおいしく熟成させることは困難だったため、微生物に注目しました。
微生物は、タンパク質の分解に使われる多くの酵素を作ることができます。とりわけ、さまざまな酵素を作ることができるのが、“麹菌”。麹菌の酵素を利用すれば、おいしく卵黄を熟成させることができるのではないか、と考えました。
その推論に基づき、最初に試したのは、既存の米麹や豆麹。しかし、私たちがめざしていた、卵黄らしさを残しつつ、コクやうま味がアップした味とは、程遠いものでした。
麹菌は生育環境によってつくる酵素が異なります。また、その酵素はそれぞれ分解できる成分が異なります。
たとえば、麹菌を豆で生育させてできた「豆麹」は、豆の栄養素を分解するのに最適な酵素をたくさん持った麹となります。
熟成後の味は、使用した酵素によって大きく変化します。めざしていたおいしさを効果的に引き出すためには、やはり、卵黄に最適な酵素を持った “卵麹” の開発が必要だと考えました。
卵麹開発のためのパートナー
アイデアを実現するため、まず話を持ちかけたのは、麹菌の専門メーカー「樋口松之助商店」の取締役・樋口弘一さん。江戸時代から続く樋口松之助商店は、数百を超える麹菌の菌株を保有しており、卵麹を作る上で最高のパートナーでした。
樋口さんは、卵麹開発のオファーを二つ返事で承諾してくださいました。
「もし卵麹を作ることができたら、麹業界では驚きのできごとです。もともと私は、麹菌の新しい市場を切り開きたいと考えていたので、この上ないお誘いでした」(樋口さん)
こうして2015年7月、卵黄をおいしく熟成させるための、「卵麹」づくりを開始しました。
さっそくさまざまな菌株を卵黄と合わせ、卵麹を作ろうと試みました。
キユーピーグループでは、独自の加工技術で開発した多くの卵原料を所有しています。それらの中から麹作りに適切と思われる十数種類をピックアップし、一つ一つ条件を変えながら検証、相性のよい原料を絞り込む作業を繰り返しました。
そして約1年がかりで卵麹が完成しました。その卵麹で卵黄を熟成させてみると、当初めざしていた卵黄らしさを残しつつコクとうま味がアップした熟成卵黄ができたのです。
(※1)提供元:㈱樋口松之助商店
改良を重ね、商品に活用できる素材へ
早速、商品に活用するため、社内の開発メンバーに提案したところ、まだ味に改良が必要であることがわかりました。
「麹菌の種類」「熟成条件」が違えば、熟成後の味はまるで違うものになります。試食・分析・評価を繰り返し、よりおいしい熟成卵黄に至る最適な条件の組み合せを絞り込み、ついに商品に活用できる熟成卵黄ができました。
アイデアから約4年、ようやく商品に活用できそうな素材となり「さらなるおいしさを引き出し、お客様にお届けしたい」という想いの第一歩を踏み出すことができたのです。