プロジェクトストーリーVol.3 卵白ペプチドによるアスリートへの貢献
※掲載内容は2017年12月時点の情報に基づきます。
2013年9月に2020年オリンピック・パラリンピック東京大会の開催が決定しました。かねてより、卵白ペプチドの抗疲労効果に注目してきたキユーピーグループでは、日本のアスリートたちへの貢献について本格的に検討する新たなプロジェクトが動き出すことになりました。
神奈川大学との共同研究プロジェクトの始動
卵白は、高たんぱく質・低脂肪で消化吸収性に優れた良質なたんぱく質源です。キユーピーグループでは、この卵白の健康機能について長い間研究を重ねてきました。近年の研究で、卵白に特殊な酵素を作用させることにより、機能性成分「卵白ペプチド」を開発することに成功しました。この卵白ペプチドを調べると、卵白の栄養成分としての性質に加え、疲労と深い関わりのある酸化を抑える抗酸化力が強いことがわかりました。
さらに動物試験でも、卵白ペプチドを摂取することで持久力の向上効果が認められたため、長距離ランナーを対象として抗疲労効果の検証を行う共同研究のパートナー探しをスタートさせました。この時出会ったのが、神奈川大学陸上競技部駅伝チームの監督を務める大後栄治教授(以下、大後監督)でした。研究への想いや目的について説明し、共感を得たことを契機に共同研究プロジェクトが動き出すことになりました。
アスリートにとって最適な卵白ペプチドゼリー飲料の開発
神奈川大学陸上競技部駅伝チーム(以下、駅伝チーム)は、1996-1997シーズンおよび1997-1998シーズンに開催された全日本大学駅伝、箱根駅伝を2連覇した強豪校です。共同研究プロジェクトが始動した2014年、大後監督は古豪復活に向けてチーム強化に力を尽くしていました。このプロジェクトで、日々過酷なトレーニングを積んでいる選手たちに負担を強いることがあってはならないという考えのもと、まずは選手たちが無理なく毎日摂取できる提供サンプルの開発に注力しました。
卵白ペプチド自体は白色の粉末で、わずかに特有のにおいと苦味を伴います。そこで、高齢者向けの栄養補助食品作りのノウハウが生かせることに着目し、長距離ランナーが摂取しやすい卵白ペプチドゼリー飲料を開発しました。
未知の領域に踏み込み試験を実施
駅伝チームへのゼリー飲料の提供体制を整えながら、並行して疲労への効果を科学的に実証する準備も進めました。キユーピーグループでは過去にアスリートを対象とした研究の実績がありません。そのため試験方法の検討には手探りで取り組まなければなりませんでした。先行研究をくまなく調査し、運動栄養学の権威の先生方にも助言を求め試験方法を考えました。また、分析機器を神奈川大学に搬入するなど環境も整えました。
そして実施した試験の結果、血液解析から疲労が軽減することを示唆するデータを取得することができました。さらに、選手たちから提供していたゼリー飲料を引き続き飲み続けたいという声が上がったことで、プロジェクトがさらに加速することになりました。 翌年には、大後監督の提案でより疲労度の高い夏季合宿に帯同して試験を行うことになりました。駅伝シーズンの開幕に向けた夏季合宿では、選手たちに限界近くまで負荷をかける過酷なトレーニングが行われます。
この試験で効果が認められれば大きな自信に繋がる一方、選手たちのコンディションに悪影響を及ぼしてしまうリスクもあるため、細心の注意を払いながら試験計画を練り上げました。
駅伝チームの男子大学生17名に対し、9日間の合宿前後における疲労感の軽減効果を検証した結果、アンケート調査(visual analogue scale)において選手たちの自覚的疲労感に改善傾向がみられました(図)。また血液検査の結果、合宿前後で筋肉や内臓へのダメージが有意に抑制されていることも明らかになりました。
疲労の軽減という価値を証明
本プロジェクトにより、卵白ペプチドはアスリートの疲労を抑制し、コンディションを整えるのに役立つことが示唆されました。厳しい練習を繰り返すアスリートにとって、日々の疲労を持ちこさないことは、より良いトレーニングを積み重ねていく上で欠かせません。たんぱく質源として身体作りを支えるだけでなく、理想をめざすアスリートのコンディションのサポートとなることが卵白ペプチドに期待される価値だと考えられます。
今回の共同研究の成果は、ランニング学会(2015年)、International Conference on Strength Training(2016年)、日本疲労学会(2017年)において発表され、「陸上競技研究」第106号(2016年)にも掲載されました。これからもトップアスリートからスポーツ愛好者へ、さらに多くの人々の健康を支えていくため、プロジェクトの挑戦は続いていきます。