第11回では、日常生活の中から誤嚥に気づくポイントを解説しました。むせは誤嚥に対する反射です。むせやすくなってきたら、食べやすい食事に変えていきましょう。今回は、食べやすい食事の作り方と安全に食べるポイントを紹介します。
作る:むせにくく食べやすい食事とは?
食事での「むせ」が気になってきたら、どのようなものでむせているかをチェックしてみましょう。
むせやすいからと献立材料から除いてしまうと、栄養バランスが偏るだけでなく、食の楽しみを遠ざけることにもなりかねません。第9回で紹介した「食べやすい食事」のように、食材や調理法の工夫で「食べたいものを食べやすく」してみましょう。
●こんなものでむせていませんか?
むせやすい食品 | 原因 | 対応例 |
---|---|---|
水、お茶、みそ汁、ジュース等 | サラサラした液体でまとまらない | ・とろみをつける、ゼリー状にする |
雑炊、高野豆腐、水分を多く含むフルーツ等 | 液体と固形物が混ざっている | ・とろみをつける、ゼリー状にする ・ミキサーでペースト状にする |
ひき肉、かまぼこ、野菜のみじん切り等 | バラバラ(パラパラ)でまとまらない | ・とろみをつける、つなぎを利用する(図1) |
きな粉、粉砂糖等 | 粉が喉に張りつく | ・粉を取る、水分と混ぜる |
酢の物、ところてん、柑橘(かんきつ)系フルーツ・果汁等 | 酸味が喉を刺激する | ・酸味を薄める、他の調味料や食材と混ぜる ・スムージーやゼリーにする |
湯気の上がったお茶、味噌汁、甘酒等 | 湯気が喉を刺激する | ・冷ます、一口量を少なめにする |
すすって食べる麺類等 | 噛みきれない/ 麺つゆがサラサラの液体でまとまらない |
・麺を3~5cm程度に切りやわらかくゆでる ・麺とつゆを分け、とろみをつけたつゆに麺をからめる |
焼き芋、ゆで卵、カステラ、パン類等 | パサパサしてのどに詰まりやすい | ・油脂(バター、生クリーム、マヨネーズ、ドレッシング等)を加える ・スープや牛乳などの飲み物と交互に(または浸して)食べる |
ワンポイントアドバイス1:家族と同じ料理で
-
シチュー、カレー、あんかけ等とろみがついているものは、家族と同じ食事の具を一口大にやわらかく煮ておくと、作り分けをしなくても一緒に食べられます。
注意!
片栗粉やコーンスターチ等「でんぷん」でとろみをつけた料理は、口の中に長く入れていると唾液に含まれるアミラーゼがでんぷんを分解し、とろみがなくなってしまうので気をつけましょう。 - 溶かしバターと小麦粉をダマにならないように加熱してスープやソースに加えると、とろみがつくだけでなくバターの風味とコクが加わり、カロリーアップにもなります。
- 納豆、オクラ、山芋、昆布など、食材そのものが持つ粘りやとろみも利用できます。
- パサつきやすいゆで卵や衣が食べにくいフライ等は、マヨネーズやタルタルソースを利用すると、しっとりして食べやすくカロリーもプラスできます。
ワンポイントアドバイス2:市販のとろみ材を利用した料理で
市販のとろみ材を使うと、家族と同じ食事に手軽にとろみをつけることができます。使用法をよく読み、適切な量で正しく使いましょう。
飲み物にとろみをつける場合
- 同じコップ、スプーンを使うといつでも同じとろみがつけやすくなります。
-
とろみ材を混ぜる時は、グルグルと渦を巻くだけでなく、上下にも動かすとダマができにくくなります(図2)。
注意!
とろみをつけ過ぎると口や喉に張り付きやすく、かえって飲み込みにくくなったり、誤嚥した際に咳き込んでも吐きだしにくくなったりして、窒息につながる恐れもあります(図3)。 初めてとろみをつける時には、専門家の指導を受けましょう。
食べる:正しい食べ方、ご存知ですか?
姿勢のチェック(図4)
安全な食事のためには、正しい姿勢で食べることが重要です。
- 背もたれのある椅子に深く腰掛ける
- 踵をしっかり床につける
- 股関節とひざは直角に
- 前かがみになって顎を引く
- テーブルが高すぎないよう調節
- テーブルとお腹の間に握りこぶし一つ分の余裕
誤嚥リスクのない方でも、浅く椅子に腰かけ顎を上げた状態や、体重を片方にかけて体が傾いた状態で食事をしてみると、飲み込みにくいと思います。食べる時の姿勢を見直してみましょう。
食べるときの工夫
食事はゆったりした気持ちで、食べることに集中したいものです。その環境を整える工夫を紹介します。
- ふちを使ってこぼさずにすくえるお皿や、一口分が多くならない適切な大きさ・深さのスプーンを使いましょう(図5)。
- 食べやすさも大切ですが、歯ごたえを楽しみたい食材もあります。召し上がる方の好みも大切にしましょう。
- 突然話しかけたりテレビをつけたまま食べたりして、気が散ることがないよう環境を整えましょう。
- 口の中や喉に食べたものが残っていると、誤嚥しやすくなります。
- パンの後にスープを飲むなど、飲み込みづらいものと飲み込みやすいものを交互に食べる「交互嚥下(こうごえんげ)」を心がけましょう(図6)。
食事をたのしむ
食べる時のむせが頻繁になって苦しくなると、日常生活にも影響することがあります。
「食べない・動かない」の悪循環を断つ
食べると苦しいのであまり食べない⇒食べる量が減る⇒体力・気力が低下し、体を動かさなくなる⇒お腹が減らない⇒食べる量が減る・・・を繰り返していると、第1回、第2回で取り上げたような低栄養と身体機能低下の悪循環に陥ってしまいます。むせにくい食事を用意するだけでなく、食欲がわく工夫や自然に体を動かすような工夫も考えてみましょう。
市販の介護食品を取り入れる
作る人も食べる人も、ちょっと目先を変えて市販の介護食品を取り入れてみませんか? 食べる機能のレベルに合わせて、適度なとろみがついている食品や、舌や歯茎でもつぶせるやわらかさの調理済み食品(第9回:ユニバーサルデザインフード)は、そのままでも湯せん等で温めても食べられます。いつもの献立に1品追加してみたり、通常のおかずをアレンジするのに使ったりすると、食事のバリエーションも増えて食卓がより豊かになりますね。
みんなで外食
最近は、事前に連絡をすれば飲み込みが難しい方に合わせたメニューを用意してくれるレストランもあり、家族一緒の食事を気兼ねなくたのしめるようになってきました。そのようなお店は摂食嚥下関連医療資源マップ(※)から探すこともできます。
※摂食嚥下関連医療資源マップ(高齢者の摂食嚥下・栄養に関する地域包括的ケアについての研究班・編): 自宅での摂食嚥下に関する問題に対応できる医療資源や介護食に対応できるレストランを検索できるWEB上のマップ。飲み込みが難しくなってきてもみんなで「外食」可能な場所を探すことができる。
外食だけでなく、おせち料理や和菓子・ケーキなどを介護食として食べやすい状態にして販売しているお店もあります。高齢者にとってなじみの食べ物には、それにまつわる思い出がつきものです。毎日というわけにはいかなくても、ハレの日・記念日などにその日にまつわる思い出や体験と結びつけて味わうこともたのしいのではないでしょうか。
まとめ
今回は、むせや誤嚥が多くなってきた時の食事の作り方・食べ方の工夫を解説しました。食事は周りの人との交わりや社会とのつながりを保つための大切な場でもあります。しっかり栄養や水分を摂り、体を動かし、家族や友人と買い物や外食にでかけられるといいですね。食べることをおろそかにせず、心も体も健康的な毎日を過ごしましょう。
参考文献
*戸原 玄(編):訪問で行う摂食・嚥下リハビリテーションのチームアプローチ.全日本病院出版会.2007
*野原幹司(編):認知症患者の摂食・嚥下リハビリテーション.南山堂.2011
*寺見雅子(編):摂食・嚥下リハビリテーション実践ガイド.学研.2012
*山田晴子・赤堀博):かみやすい・飲み込みやすい介護食 家族一緒のユニバーサルレシピ.女子栄養大学出版部.2015
*日本摂食・嚥下リハビリテーション学会医療検討委員会 嚥下調整食特別委員会:日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2013