第10回では、誤嚥が起こる仕組みを解説しました。誤嚥によってむせて苦しかったり、肺炎を引き起こしたりすると、食べる回数や量も少なくなりがちです。食事量の減少は体力低下をもたらし、日常生活にも影響を与えます。誤嚥-低栄養-体力低下の悪循環に陥る前に、飲み込みづらさに気づくためのポイントを紹介します。
食事でのチェックポイント
食事中の「むせ」は最もわかりやすい誤嚥のサインです。誤嚥が頻繁に起こるようになると、飲み込みやすいものを選ぶようになる傾向があるので、好んで食べているものが変化してきたら要注意です。食べ方や食中・食後の様子から気づくこともあるので、一緒に食事をしているときにチェックしてみましょう。
- みそ汁やお茶でむせやすく、避けるようになってきた
- 食事を中断しがちで食べる量が少なくなった
- 食事にとても時間がかかるようになった
- 食後に声がガラガラするようになった
- よだれが増えた など
当てはまることがあったら、かかりつけ医や看護師、栄養士などの専門家に相談しましょう。
会話でのチェックポイント
発声も嚥下と密接な関係があります。舌や唇の働きは、食べるために必要であると同時に、声を出すときにも必要です。特に「パ・タ・カ」の音がはっきり発音できない時には、誤嚥や摂食不良を疑う手掛かりになります(図1・2)。
パ:唇を閉じて発音⇒食べものを口からこぼさない
タ:舌を上顎に押し当てて発音⇒食べ物を舌と上顎で圧をかけてつぶす、喉に送る
カ:喉を閉じて発音⇒誤嚥の原因となる隙間を作らない
-
パ・タ・カがファ・サ・ハと聞こえる
- ファ:唇の動き、サ:舌の動き、ハ:舌の奥の動き に問題がある パ・タ・カがマ・ナ・ンガと聞こえる
- 軟口蓋が上がるべきところ、下がってしまい鼻に息が漏れている
※口の中の食べ物が鼻腔に入ってしまう可能性があります。
パ・タ・カがア・ア・アと聞こえる
- 唇、舌、軟口蓋の動きに問題がある
当てはまることがあったらかかりつけの医師や歯科医師、看護師、栄養士などの専門家に相談し、必要に応じて嚥下機能検査や食べる時の指導を受けましょう。
コラム:嚥下機能検査とは?
▲VE実施の様子
嚥下機能検査は専門家によって行われ、噛みつぶしたり飲み込んだりする口や喉の動きと、口の中の物が喉を通っていく様子を見ることができます。一人ひとり、どこに飲み込みの問題があるかを明らかにし、飲み込みやすくする(とろみをつける、頭や首の向きを変える、など)手掛かりとなります。
VF(嚥下造影検査)
病院などで専用のX線透視装置を使って飲み込みの様子を観察する検査法。食べ物や唾液を飲み込んだときの流れを知ることができます。気管への誤嚥の様子もわかります。
VE(嚥下内視鏡検査)
鼻から細い内視鏡を入れて喉の状態を観察する検査法。飲み込みの瞬間は見られませんが、飲み込んだものが喉につかえている様子などを直接見ることができます。
写真提供:戸原 玄先生(患者さん・ご家族のご承諾を得て掲載しています)
誤嚥を肺炎にしない体づくり
誤嚥の防御反応である「むせ(咳き込み)」は、呼吸筋の働きによって起きています。誤嚥による肺炎発症のリスクを下げるためには、正しいお口のケア(第9回参照)と、しっかりむせることのできる呼吸筋の働きがポイントです。腕や足の筋肉と同じように、動かさなければ呼吸筋も衰えます。体調に合わせ、無理のない範囲で、日頃から呼吸筋を動かすようにしましょう。
- 猫背は肺を押さえつけてしまうので、背筋を伸ばし胸を開くような姿勢を意識する
- ゆっくりと深呼吸(慣れてきたら腹式呼吸) をくりかえす
- 肩を中心に腕をぐるぐる回す
むせが頻繁に起こるようになると、食べることが苦しくなって食事を控えてしまうかもしれません。そこから低栄養や活動量低下による「QOL(生活の質)低下の悪循環」(第9回 図1)に陥りやすくなります。
気になる場合は、必要に応じて嚥下機能検査や食べる時の指導を受け、誤嚥性肺炎の発症や体力低下を防ぎましょう。
まとめ
専門家による検査だけでなく、日頃の様子を知っている家族やヘルパーさんだからこそ気をつけてほしい、日常生活の観察ポイントを解説しました。健やかな老後を送るために、「食べられる口」と「ゴックンのできる喉」を守っていきたいものです。
本シリーズの最終回となる第12回では、飲み込みやすい嚥下食の作り方と食べ方について紹介します。
参考文献
*戸原 玄(編):訪問で行う摂食・嚥下リハビリテーションのチームアプローチ.全日本病院出版会.2007
*野原幹司(編):認知症患者の摂食・嚥下リハビリテーション.南山堂.2011
*日本訪問歯科協会:訪問歯科ネットkuchikara
*新宿区健康部健康づくり課/特定非営利活動法人メディカルケア協会:楽しく歌って、動かして、食べる幸せいつまでも