食事でむせていませんか?

最近むせやすいのはなぜ?

第10回から12回までの3回は、噛んだものを飲み込む時の「喉の働き」と、飲み込んだ時に起こりやすい「むせ」について解説します。食事の時のみそ汁やお茶、薬を飲む時のお水などで、むせて苦しい思いをしたことはありませんか? この「むせ」はどうして起きるのでしょうか?

こんなにすごい、喉の働き

ゴックンと飲み込むことを「嚥下(えんげ)」といいます。嚥下は成長と共に身についた行為なので、普段は、ものを食べたり飲んだり唾液を飲み込んだりする時、「今から飲み込むぞ」と意識することは、あまりないと思います。
喉は、食べ物の通り道(食道)と空気の通り道(気管)が交差しており、わずか0.5~0.8秒のゴックンの瞬間に、口や喉のまわりの筋肉・神経が複雑に働いて、食べ物や飲み物を食道に送り込んでいます。
通常の飲み込みの仕組みをみてみましょう。

❶ 食べ物が口の中にない時、喉は気管と交通して呼吸をしています(図1)。
❷ 食べ物などが喉を通過する瞬間は、声門や喉頭蓋(こうとうがい)というフタが気管をふさぎます(図2❷)。食道に流れるべき食べものや唾液などが、誤って気管に入り込む「誤嚥(ごえん)」を防ぐためです。
❸ 喉頭(のど仏)は、ゴックンと飲み込む瞬間、上に動いて食道の入り口を広げ、食べ物を通過しやすくしています(図2❸)。これは、食物を通過させる、「嚥下反射(えんげはんしゃ)」が起きているためです。

食べ物が口の中にない時

(図1)※画像クリックで拡大表示

飲食物が口の中に入った時

(図2)※画像クリックで拡大表示

飲み込みづらくなってきたら誤嚥に注意

今まで何気なく飲んだり食べたりしていたものが、飲み込みづらくなっていませんか?この状態は、以下のような原因が考えられます。

    加齢に伴う体の変化
  • 唾液の減少
    ⇒飲み込みやすい食塊にまとめられない
  • 噛む力の低下
    ⇒飲み込みやすい大きさまで噛み砕けない
  • 反射神経の衰え
    ⇒気管へのフタが間に合わない
  • 筋力の減少
    ⇒タイミングよくゴックンができない
    疾患や処方薬の影響
  • 脳卒中、神経疾患、認知症の後遺症や症状
  • 薬の副作用

これらが引き金になって、飲み込む時に使われている口や喉の周りの働きが低下したり、嚥下反射のタイミングがずれたりしやすくなります。すると誤嚥を起こしやすくなり、今まで何気なく飲んだり食べたりしていたものでもむせやすくなるのです。
むせた時に食べていたものはどんなものが多いですか?とろみのあるシチューやあんかけより、みそ汁やお茶などとろみの無いものでむせることが多いと思います。
とろみの有り無しは、喉を通過する時の速さに影響し、誤嚥の起こりやすさにも関係します。
誤嚥に至る仕組みをみてみましょう。

❶ 喉の周囲の筋肉の衰えにより喉頭が上がりきらないと食道の入り口が開ききらず、飲み込んだものが食道に流れにくくなります(図3❶)。
❷ 声門や喉頭蓋による気管をふさぐタイミングが遅れると、とろみのついていないものほど、隙間から気管に流れていきやすくなります(図3❷)。

反射神経は意識して改善することは難しいので、嚥下体操などで飲み込みの筋肉を鍛えたり、食事にとろみをつけたりして誤嚥を予防するよう心掛けましょう。

高齢者の誤嚥のしくみ

(図3)※画像クリックで拡大表示

怖いのは誤嚥による肺炎

日本人の死亡原因のうち、肺炎(5位)と誤嚥性肺炎(7位)は上位にあります(図4)。高齢になるにつれて、これらを発症するリスクが高まることが知られています(図5)。

主な死因別死亡数の割合(平成29年)

厚生労働省:「平成29年人口動態統計」より
(図4)※画像クリックで拡大表示

年代別肺炎(誤嚥性肺炎含む)死亡率

(図5)※画像クリックで拡大表示

口の中には300種類以上もの常在菌がいるといわれており、口の中が汚れていたり殺菌作用を持つ唾液の分泌量が減っていたりすると、細菌が繁殖しやすくなります。体外から体内に肺炎を起こす菌が侵入して起こる肺炎に対して、体外の細菌や口の中の細菌が付着した食べ物や唾液が、気管を通って肺の奥まで入り炎症を起こすのが誤嚥性肺炎です(図6)。

健康な状態であれば、多少誤嚥をしても、むせることで気管に入り込んだ段階で吐き出せますし、抵抗力が保たれていれば、細菌から体を守ってくれます。
怖いのは、少食や偏食、持病の悪化、薬の副作用などによって体力や抵抗力が落ちた状態での誤嚥です。むせて吐き出す力が弱く、食べ物や唾液に付着した細菌の繁殖を防ぐ力も弱くなり、誤嚥性肺炎を発症しやすくなるのです。

誤嚥による肺炎

(図6)※画像クリックで拡大表示

コラム:むせない誤嚥、サインを見逃さないで!

誤嚥すると、通常は喉に咳反射(むせ)が起こり、気管に入り込んだ異物を咳によって吐き出そうとします。ところがこの咳反射が起こらないまま誤嚥していることがあります。
誤嚥性肺炎の症状は、発熱やだるさなど、風邪と似ています。むせていない場合は特に、本人も周囲の人も風邪との区別がつきにくいため、気づくのが遅れることもあります。以下のようなサインがみられたら、専門家に連絡しましょう。

  • 食事のあとの声がガラガラ声になっている
  • 痰が増える、痰が黄色い
  • 37.5度以上の発熱が続いている
  • 呼吸が苦しそう
    など

まとめ

私たちの喉には誤嚥を防ぐ仕組みが備わっていますが、加齢にともなう全身機能の低下によって喉の働きも衰え、誤嚥しやすくなります。しかし、日常生活を意識することで防げることも少なくありません。口や喉の働きが低下しないように鍛えること、バランスよく栄養を摂って抵抗力を低下させないこと、口の中をいつも清潔に潤った状態に保つことは、誤嚥性肺炎の予防にもつながります。

次回は、嚥下機能の衰えに気づくポイントと、誤嚥性肺炎の予防について解説します。

参考文献

*厚生労働省:「平成29年人口動態統計」
*PDNホームページ:トラブル&ケア Dr.石塚のお口のケアのススメ
*才藤栄一、他(編):摂食・嚥下リハビリテーションマニュアル.p25 医学書院 1996