食べているのに低栄養?

低栄養が進むとどうなるの?
第1回(詳しくはコチラ)では、低栄養とはどのような状態なのかやその原因について解説しました。
今回は、低栄養が進むと、高齢者の体にどんな影響があるのかを解説します。

低栄養が改善されないと・・・

「低栄養」は体に必要なたんぱく質、エネルギーが不足して、健康な体を維持することが難しい状態のことです。
この状態が長く続くということは、体を動かすためのエネルギー不足や、筋肉・内臓・骨・皮膚などのもとになる材料不足を意味します。

たんぱく質が不足すると・・・

□体力・免疫力が低下

体を作り維持していくための材料が不足すると、体そのものが脆弱(ぜいじゃく)になり、外部の刺激から体を守る力も衰えていきます。
  • 低たんぱく血症(症状:腹水(ふくすい)、浮腫(ふしゅ)など)を起こしやすくなります
  • 皮膚が弱くなり傷ができやすく、治りにくくなります(例:褥瘡(じょくそう)など)
  • 免疫力が弱くなり、風邪や感染症にかかりやすくなります

□筋肉量・筋力が低下

たんぱく質の多くは、筋肉内に蓄えられています。
体にとって必要なたんぱく質の摂取が不足すると、この筋肉内のたんぱく質が使われます。それに伴い、筋肉量の減少や筋力の低下が生じます。
  • 筋肉量が減少するため、体重も減少します
  • 筋力が低下することでさらに運動機能や活動量が低下する悪循環に陥ります

このように、低栄養⇒たんぱく質不足は、体に様々なトラブルを引き起こし、日常生活における自立度の低下につながる要因にもなります。

<コラム:口やのどの筋肉が衰えると…?>

食べる時には、口やのどの筋肉を動かしています。(※図1)。その筋肉が衰えると、飲食物や唾液などがのどを通る時に気管に入りやすくなり(誤嚥)、それを吐き出すための咳払いも弱まるため、誤嚥性肺炎のリスクが高くなります。

食べるために必要な筋肉

(図1) ※画像クリックで拡大表示

低栄養が引き金で陥るこんな状態をご存知ですか?

低栄養が引き金で陥るこんな状態をご存知ですか?
低栄養状態が長期にわたると、「フレイル」・「サルコペニア」・「ロコモティブシンドローム」と呼ばれる身体機能低下の引き金になることがあります。

● フレイル

健康な体を維持する機能やストレスに対する力が低下した、虚弱・脆弱な状態。

● サルコペニア(筋肉量減弱症)

筋肉量減少・筋力低下により、体全体の機能が低下する状態。
※筋肉量減少の危険度をチェックする1つの目安として、指輪っかテスト(※図2)があります。

● ロコモティブシンドローム(運動器症候群)

筋肉や骨など運動器の障害により、日常生活に支障が出る状態。略称ロコモ。

<こんなこと、思い当たりませんか?>

「食が細くなってきた」「疲れやすい」「重いものを持てない」「階段の上り下りに手すりが必要」などから、身体機能の低下に気づくことがあります。
また、高齢だから…と気づかっているつもりが、低栄養や身体機能低下を進行させている場合もあるので注意が必要です。
  •  食事は本人が食べられるものだけ(好きなものだけ)を用意することが多い
  •  (起きて食事ができるのに)移動が大変なので、ベッドで食事をさせている
  •  誤嚥性肺炎や窒息が怖いので、口からの食事を控えめにしている
  •  転倒・骨折をしないように、できるだけ外出させないようにしている
一つでも思い当たることがあったら、かかりつけの医師、看護師、薬剤師、栄養士などに相談して、食生活や運動を見直してみましょう。
指輪っかテスト

(図2) ※画像クリックで拡大表示

低栄養と身体機能低下の悪循環を止めましょう

低栄養状態になると疲れやすくなるので、体をあまり動かさなくなります。
それによってさらに筋力が低下したり、食欲がわかずに食べる量が減ったりします。
低栄養の悪循環(※図3)は、どこからでも始まりお互いに悪影響を与え合っています。こんな悪循環に陥らないためには、栄養・運動・人や社会との交流など、多方面から悪循環を断つ方法が考えられます。栄養面からの改善を考えるときにはまず食事を見直して、食べる量や回数、栄養素のバランスに気を配り、低栄養状態の予防に努めましょう。

第3回では、低栄養対策の基本となる「食事」のポイントと自宅で出来る手軽な「運動」を紹介します。
低栄養とサルコペニアの悪循環

(図3) ※画像クリックで拡大表示

参考文献

*1)「ナースマガジン Vol.18,P16~P.18,2017:低栄養をもとから断つ~サルコペニア・リハビリテーションの理解から~」(メディバンクス)
*2)『リハビリテーション栄養ハンドブック』若林秀隆 2010年(医歯薬出版)
*3)「歯科衛生士だより」vol.25,2015,Feb.(公益社団法人日本歯科衛生士会発行)